「永い言い訳」読了。

 西川美和著「永い言い訳」(文春文庫)読了。読んでいて、「こ、これはすごい本に出会ってしまった」と嬉しくなった。こういう理屈っぽい主人公の小説は大好き。早くも今年のベスト本となる予感。

 「いいなあ」と思う部分がたくさんあったけど、いちばん面白かったのは、主人公の幸夫が4歳の少女・灯ちゃんにカレーを作ってあげようとするところ。レトルトカレーを温めたのにご飯がないのに気づいてしかたなく、鶏そぼろ丼のそぼろを取りのぞいた下のご飯に、カレーをのせて食べることになった。

 ぼくは飯無しでは味の濃すぎる鶏そぼろをつつきながら、黙々とカレーを食べる灯ちゃんに、おいしいかどうかを訊くのさえ、虚しかった。女たちのこの態度をぼくは知っている。どうせ役立たずだと思ってるんだろ。あなたが余計な提案さえしなければ、物事はもっとシンプルで、まともだったのよ。何もかも、ややこしくするのはいつもあなたで、割を食うのはいつもあたし。口に出さないだけ優しいと思ってよ、と言いたいんだろ。 (150〜151ページ)

 思わず失笑。 
 直木賞本屋大賞の候補にノミネートされながら、受賞を逃したというのが驚き(直木賞東山彰良の「流」が受賞、本屋大賞は4位)。こんな面白い小説、なかなかないけどなあ。人が死ぬのに暗くないのがすごいと思う。幸夫と真平のやりとりもよかったなあ。映画、見ておけばよかった。

永い言い訳 (文春文庫)

永い言い訳 (文春文庫)