「離婚」読了。

 色川武大著「離婚」(文春文庫)読了。色川武大は学生時代に「怪しい来客簿」や「狂人日記」を読もうとしたけれど、面白さがわからずに挫折した経験がある。でも今回は一気に読むことができたし、すごく面白かった。私も色川武大の面白さがわかる年齢になったということなのか、と感慨深い。
 合意の上で離婚したのに執着を捨てきれず、結局同居を続ける奇妙な元夫婦を描いた連作短編集。裏表紙の紹介文に書かれている通り、「味わい深い独特の筆致」が印象的。この作家は実に言葉をよく知っているし、人間を知っているなと思った。文章をなんとなく書いていないなということが伝わってくる一冊。これは若造には書けない。
 以下、一番好きな部分を書き出しておく。

 だいたいぼくは次男坊のせいか、親兄弟に対する執着もうすい方らしく、東京に出てきて一度も故郷を恋しく思ったことがありません。また、中学、高校、大学、そして社会に出てからも、離れがたく思うような友人もできませんでした。そのくせ、映画やテレビなど見ていて、物語(ストーリー)自体にはすこしも乗っていないのに、人と人が誤解をといたり、心を触れ合わせたりする場面があると、不意に、どっと涙が溢れてきたりするのです。小さい頃から他人に理解されにくく、また理解されるほどすぐれてもおらず、そういう自分をぽつりッと孤立させたまま育って、なんとなく世の中の表面と歩調を合わせながら、実は誰とも深い提携をすることなく生きてきてしまったぼくの泣きどころなのかもしれません。(66ページ)

新装版 離婚 (文春文庫)

新装版 離婚 (文春文庫)

 【メモ】琴瑟相和す(きんしつあいわす)…95ページ。初めて見る言葉。琴瑟はふつうの琴と弦の多い大型の琴。夫婦のなかがひじょうにいいたとえ。(「三省堂国語辞典 第5版」より)