「本と怠け者」読了。

 荻原魚雷著「本と怠け者」(ちくま文庫)読了。前半の「ちくま」の連載部分が特に面白かった。矢牧一宏、梅崎春生新居格安成貞雄など、あまり知らない人物が取り上げられていて、興味深かった。
 著者の読書の最大の特徴は、本の中に自分が生きるためのヒントを探し求めていることにある。フリーライターとして生きる決断をした著者にとって、作家たちがどのように考え、困難を乗り越えてきたかを知ることが、何よりも切実なテーマなのだろう。
 ところで著者は「自分の読書史の中には『尾崎一雄以前以後』という明確な区分がある」と述べている。それぐらい、「尾崎一雄の書いたものにことごとく打ちのめされ」、「尾崎一雄中毒」になったらしい。そして、「自分の中に『尾崎君』というべき人物が住みついたような気がした」という(「冬眠先生」)。また、こうも書いている。

 誰でもいいのだが、あるていど長生きして、全集が出ていて、年譜が残っているような人だと、その作家の年齢に応じて、彼らがそのときどきに何を考え、何を悩んでいたのか、というようなことがわかる。
 そうやって、自分の中に作家や批評家が棲み着くと、自分の考えが行き詰まったりしたとき、何かと助言してくれるようになる。ときどき自分の中に棲んでいる作家と評論家がもめたりして混乱することもあるのだが。(「批評のこと」298ページ)

 いいなあ。そこまで深く読書をした経験はないので羨ましく感じた。私にも誰か棲み着いて、助言して欲しい。

本と怠け者 (ちくま文庫)

本と怠け者 (ちくま文庫)