「和子の部屋」を読んでいる。

 阿部和重の最新刊「和子の部屋 小説家のための人生相談」(朝日新聞出版)を読んでいる。阿部和重が女性作家のさまざまな悩みに応えるという対談集だが、めちゃくちゃ面白い。彼の今後の仕事がますます楽しみになる一冊。
 以下、印象に残った部分を抜粋。

 阿部 さっき、「阿部和重」として書くことに不自由さを感じていると言ったけど、あらゆる作家には書き方の癖だけでなく、発想の癖がついてまわり、いま書いているものは明らかにそれまで自分が書いてきたものの延長線上に存在している。僕はそのことにすこし嫌気がさしているけれど、角田さんの場合、その癖の最たるものが、不幸や抑圧を書くきっかけにするということでしょう。しかしいまこそ、その癖をチャラにできる転換点かもしれない。作家にとってこれほど喜ばしいことはほかにないよ。(25ページ、相談者・角田光代

 阿部 そうですよ! 隠喩じゃないんです。今回のご相談が実は小説家の職業病とも関係していることが明らかになりましたが、文学って要するに、あらゆる物事に意味が宿っているかのように人々を誤解させる装置でもありますね。そのこと自体は害ではないけれど、でも虚構の信号を読み解くのと同じやり方で人生のあらゆる場面を解釈しようとすれば、確実に生活に支障をきたします。だから太宰治なんてこの際、全部捨ててしまいましょう(笑)。(164ページ、相談者・綿矢りさ