「新装版 海も暮れきる」読了。

 吉村昭著「新装版 海も暮れきる」(講談社文庫)読了。「咳をしても一人」で知られる俳人・尾崎放哉が、家族や職業を捨てて小豆島に渡り、41歳で亡くなるまでの8ヶ月を描いた伝記小説。
 放哉は一文無しで島へ渡るが、肺病持ちで力仕事は一切できない。それなのに酒癖が悪く、プライドは人一倍高い。捨てたはずの妻には未練たらたら。裕福だった頃の生活が忘れられず、ウイスキーや牛肉、高級煙草が欲しいと無心する。どうしようもない中年男だが、周りの者はついつい世話を焼いてしまう。孤独に生きたイメージの放哉だが、超がつくほどの手紙魔で、客人があれば大いに喜び歓待する。しかし小豆島の予想外の厳しい冬の寒さに、彼の体は耐え切れず、ボロボロになって絶命する。
 あとがきによると、著者・吉村昭は若い頃放哉と同じく肺結核に侵され、苦しい闘病生活を経験している。その親近感から生まれた本作は放哉に対する愛着にあふれ、読者は放哉の人間性やその作品に自然と惹きつけられてしまうだろう。
 私は6年前の2005年8月に、小豆島の尾崎放哉記念館を訪れている。ああ、この本を読んでから行くべきだった。いつか再訪したい。

新装版 海も暮れきる (講談社文庫)

新装版 海も暮れきる (講談社文庫)