「青春の逆説」読了。

 織田作之助著「青春の逆説」読了。主人公・毛利豹一の母親が彼を産むエピソードから始まって、彼の少年時代、学生時代、大学中退後に新聞記者として働き、結婚するところまでを描いてゆく。かつて織田作之助の「競馬」という短編小説を読んで感心した記憶があるが、この本もいいね。こういう虚栄心が強いくせにおどおどした青年が主人公の話は、いかにも青春小説という感じがして好きだ。デビューの翌年に書かれた作品だというが、文章も実に洗練されていて巧い。
 特に印象に残ったのが、新聞社の入社試験に出題された「Lumpen(ルンペン)」という語を解説させる問題の豹一の答え。

 「独逸語で屑、襤褸(ぼろ)の意。転じて社会の最下層にうごめく放浪者を意味する。日本では失業者の意に用う。しかしルンペンとは働く意志のない者に使うのが正しいから、たとえばこの講堂へ集った失業者はルンペンではない」

 こういう文章がすらすらと書けるようになりたいものである。また、心象を情景描写を交えながら表現する術に長けている。たとえば、
・「豹一は土門や北山のあとに随いて行きながら、顔にかかる雪を冷たいと思った。」
・「一雨一雨冬に近づく秋の雨がお君の傘の上を軽く敲いた。」

 杉山平一(誰だろう?)の解説によると、この小説の後篇部分は上梓直後、発売禁止処分を受けている。昭和十六年という緊迫した戦時下にあっては、内容的に相応しくないと判断されたらしい。青春小説は平和の象徴。現代にこそ読まれるべき傑作。


 次は、大江健三郎著「キルプの軍団」(講談社文庫)を読みます。

キルプの軍団 (講談社文庫)

キルプの軍団 (講談社文庫)