「ほかならぬ人へ」読了。

 白石一文著「ほかならぬ人へ」(祥伝社文庫)読了。第142回直木賞受賞作だが、正直言ってどうしてこんな本で獲ってしまったのか・・・と悲しくなった。今まで読んだ白石作品で最も面白くなかった。彼の作品の挑戦的なまでの独自性がほとんど感じられず、普通すぎてびっくりした。
 おそらく、掲載媒体に合わせてこういうものを書いたのではないかと想像する。「僕のなかの壊れていない部分」で衝撃を受け、「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」でますます著者への思いを強くした自分としては、この作品が著者の経歴で第一に紹介されてしまうことを大変残念に思う。
 (以下、若干のネタバレあり)細かい内容としては、表題作の主人公の妻・なずなの人物像があまりにも薄っぺらに思えた。渚が死んでしまうのもどうかと思う。東海さんが香水のことで嘘をついた理由もよくわからない。後半に収録された「かけがえのない人へ」との間に、もう少し関連付けるような仕掛けがあってもよかったのではないか・・・などなど、著者のファンであるがゆえに、いろいろと不満が募ります。通底するメッセージのようなものは相変わらず共感できる部分が多いが、物語としては好きになれなかった。

ほかならぬ人へ (祥伝社文庫)

ほかならぬ人へ (祥伝社文庫)