「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上・下巻」読了。

 白石一文著「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上・下巻」(講談社文庫)読了。全く長さは感じさせないが、内容的にはこれ以上ないほどてんこ盛りの長編小説。著者の本を読むのは3冊目だが、一貫したテーマや態度は変わらない。たとえば「人間は生まれて生きて死ぬだけ」、「恋愛やセックスはそれほど重要なことではない」、「結婚はいつも諸悪の元凶」というような考え方。細かい部分で言うと、「子どもを生後すぐに預けるのは間違っている」とか「花粉症のせいで春は嫌いだ」とか。
 今作で特に大きく扱われるのは、「貧困」と「時間」。これほど真正面から社会的テーマにぶつかっていける作家は、他にいないのではないか(村上龍ぐらい?)。夏目漱石になぞらえた片山恭一の解説も納得できた。彼の言うとおり、「小説らしくない小説」。山本周五郎賞っぽくないし。ただ、最後がやや大団円すぎる気もする。もっと散らかしっぱなしの部分があってもいいのでは。
 ↓ 表紙は単行本のものよりこちらの方がいいと思う。

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上 (講談社文庫)

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上 (講談社文庫)