「永遠のとなり」読了。

 白石一文著「永遠のとなり」(文春文庫)読了。主人公はうつ病で会社を辞め、離婚して故郷の福岡に帰った青野精一郎、48歳。「僕のなかの壊れていない部分」とは全く性格の違う作品だが、これまた期待を裏切らない静かな秀作だ。今年はこの作家の本をたくさん読むぞ(たぶん)。
 白石氏の小説において(2作読んだだけだが)、母親という存在に比べると妻(あるいは恋人)や子供は重要な立場を与えられていないように思う。以下、結婚に関する印象的な記述を抜粋。

 おそらく人間は自らの孤独と向き合わなければ、自身の真価を見出すことがむずかしい生き物なのだ、と最近思うようになった。
 若い頃の私に欠けていたのは、その孤独と向き合う力だったような気がする。
 幼少時に両親が離婚し、二十五歳で最愛の母を亡くした敦が直後に最初の奥さんと結婚したのは無理からぬところがあった。だが、私の場合は、やはり結婚が早すぎた。うつ病になってからの一年半、さまざまに過去を洗い直していく過程で、唯一これは完全な失敗ではなかったかと考えたのが、その早すぎた結婚であった。
 結婚によって自分だけでなく、富士子や文弥をもひどく傷つけることになった。
 痛恨の極みだったと思っている。(177〜178ページ)

 「自らの孤独と向き合う」ってすごい言葉。若者にこそ読んでほしい本。でも、なかなか理解できないだろうなあ。
 ただ、著者の小説には福岡の町が詳しく描かれるが、九州は馴染みがないのでいまいち地理や風土がピンとこない。九州にゆかりのある作家って、吉田修一(長崎)、平野啓一郎(北九州)、佐藤正午佐世保)、村田喜代子(北九州)などたくさんいるけれど、少しでも縁があればもっとくっきりと物語を味わえるんだろうなあと思う(「孫正義伝」も鳥栖だった)。旅行で2、3回行っただけなので。北海道は2年弱住んだのでかなりわかるんだがなあ。

永遠のとなり (文春文庫)

永遠のとなり (文春文庫)