「飢餓同盟」読了。

 安部公房著「飢餓同盟」(新潮文庫)読了。安部公房の文学世界を存分に味わえる傑作。「シンセミア」(神町)もそうだけど、こういう狭い場所(花園町。架空の町だが、東北のような気がする)を舞台に展開する壮大な話は好きだなあ。
 SF的要素あり、政治や社会への痛烈な風刺的要素もあって物語として大変面白かったが、何よりも圧倒されたのは著者の文章感覚かもしれない。前にも一部引用したが、第三章の冒頭部分もここに引いておく。

 ……ふた月とすこしたった。桂川が空のボール箱をはじいたような音をたてて鳴った。上流の雪がとけ、急に水カサが増した証拠である。道路はぐしょぐしょになり、そこからたちのぼるほこりっぽい蒸気が、キャラメル工場のにおいとまじりあって、町中がまるで病み上りの男の寝床のようだ。壁ぎわや立ち樹の根もとの陽だまりには、もう大分まえから春がきていた。春は日一日と数を増し、今日は昨日の二倍、明日は今日の二倍……あさっては、たぶん、軽石のように穴だらけになった雪のかたまりが、日陰の枯草にでもしがみついていることだろう。(205ページ)

 すごいね。かっこいいね。

飢餓同盟 (新潮文庫)

飢餓同盟 (新潮文庫)