「人、中年に到る」読了。

 四方田犬彦著「人、中年に到る」(白水社)読了。ずいぶん老け込んだ、著者らしくないタイトルをつけたものだと思って読み始めたが、なるほど昨年病気をして(良性の脳腫瘍、手術で回復)、人生の半ばが過ぎたという思いに向き合ったことがこの本を書いた動機らしい。
 批評家としての仕事というよりは、57歳の著者の正直な心中を垣間見ることができるエッセイ。職業に対するある程度の達成感、旅や外国語を学ぶことの楽しさを綴る文章はイキイキとしているが、恋愛や女性に対してはいい思い出はないらしい。「恋愛くたばれ、友情万歳」とまで言っている。
 もう一つ気になったのは頻繁に登場する「達観」という言葉。旅をするのも達観が目的の一つだと述べている。現在29歳の私としては、あまり感じたことがない感情なので不思議に思う。中年とはどんな世界なのか。間違いなく今よりも死が身近になっているのだろう。考えさせられることが多い一冊だった。

人、中年に到る

人、中年に到る