今読んでいる本。

 読了していない本についてはここに書かないことにしているのだけれど、今日はメモがてら言及しておく。車谷長吉著「文士の魂・文士の生魑魅」(新潮文庫)を読んでいる。非常に面白くて正直に綴られた読書エッセイで、気になる文章が満載。著者の筆の確かさを改めて実感。

 小説とは作者が勝手な演説をする場ではない。作中人物の生死の活動を描くものである。(「青春小説」より、31ページ)

 近頃は何か言うと編輯者は長篇小説を、長篇小説をと言い立てるが、それは長篇小説だとすぐに商売になるからで、併し私は小説の醍醐味は短篇小説にあると思うている。何気ない日常的な生活風景の底にひそむ「日常の中の異常」とも言うべきものが、小説の破局(カタストローフ)において、突如顔を覘かせ、意外な、波瀾に満ちた人の生死の、鮮烈な断面を切り取って見せる。そしてそれがいつ迄も私達の記憶に残る。そういう短篇小説ならではの醍醐味は、長篇小説では味わえないものである。(「短篇小説の魅力」より、71ページ)