作家の出身地。

 昨日、桐野夏生が父親の転勤で各地を転々としていた旨を書いたが、出身地を「金沢生まれ」とされることにとまどいがあるとも言っている。確かに彼女は金沢で生を受けたが、3歳でその地を離れている。
 作家のプロフィールには必ず「出身地」が記されているが、吉田修一にとっての「長崎市」や、阿部和重にとっての「山形県神町東根市)」のように、作家としてのアイデンティティに大きく影響を与え、作品にもそれが昇華されているというケースは、現代ではごく稀なことであるように思う(吉田の生家は酒屋であり、阿部の生家はパン屋を営んでいるということも、サラリーマン家庭に比べると比較的地縁的な結びつきが強い環境にあったと想像できる)。
 ただ、桐野と同じく父親が転勤族だった山田詠美が、新作「学問」(未読)で少女期を過ごした磐田市をモデルとした町を舞台としているように、全く意味がないということではない。中上健次にとっての「新宮」のような強烈なケースはあまりないが、人間形成時に住んだ場所は少なからず作家の要素、テーマとなっている。
 ・・・というようなことを考えていたら、昨晩はなかなか寝つけなかった。